ユニバーサルデザインとは、障害者や高齢者はもちろん、少しでも多くの人が快適に暮らせるよう配慮した建築や商品、環境の創造をしていこうという考え方である。私は長年、その専門家として研究やデザインにかかわってきた。
米国の研究機関に在籍していた時、認知症高齢者向け居住施設の研究に携わった。研究といっても、認知症の患者を治療するといった医学的な研究ではなく、部屋の間取りや照明、空間の設計やインテリアのデザインをどのようにしたら住みやすくできるかというデザインの研究である。
多くの研究や実践から、認知症の高齢者は、入居する施設のデザイン面を含む環境次第で状態が良くなること、さらには、そのことにより介護スタッフの手間が省けることも分かっている。私は、実際に効果があったとされる施設を訪れ、デザインの検証や入居者のインタビュー調査をんた。
ある施設では、入居者が迷わないで自分の部屋に戻れるよう、光や色の使い方を工夫していた。別の施設では、庭に出て日の光にあたり植物に触れることができるよう、迷わず安全に歩けるように庭を設計していた。いずれも、本人の自立を促し、スタッフの負担を軽減していた。
公園や学校、催事施設を併設した事例、テーマパークのような施設もあった。家族や地域住民が気軽に訪れ、入居者だけでなく施設にかかわる誰もが楽しくなるよう様々な工夫が凝らされていた。
帰国後、高齢者施設のデザインを頼まれた私は、白本の実情に驚いた。入居者に配慮したデザインとはほど遠いものも多かったのだ。緑も、十分な採光もなく、外界から隔絶された空間が横行している。部屋も無機質で暖かみが感じられない。長年使ってきた愛着のある戸棚やベッドも持ちこめない。庭に出ることはもちろん、施設内ですら自由に歩くことができない。
与えられた空間の中で、選択肢がなく、刺激も少ないと、本来持っている能力も萎えてしまう。言葉を発することができない入居者の声をくみ取り、改善していくことが必要だ。その際、その人が属する社会との関係性に着目すべきだというのが、私の主張である。
ユニバーサルデザインの考え方に基づいた高齢者施設とは、入居者だけでなく、そこで働く人や訪れる人、地域の人も含め、施設にかかわるすべての人に配慮した空間を指す。すべての人のニーズをくみ上げることで」デザインによる新しい解決策が生まれてくるのである。
美しい自然光が漏れてくる広場を中央に作ったらどうだろう。緑の木々があるその広場からは人々の会話が漏れ、料理の香りが漂ってくるようにする。愛嬌のあるペットや、魚が泳ぐ水槽を置くだけで、静的な空間が動きのある空間に生まれ変わる。そうした工夫により、部屋に閉じこもった入居者が集まり、家族、スタッフ、入居者同士、家族同士などがほほ笑むような場が生まれるだろう。
人生の最後を過ごす高齢者施設は、ただ死を待つ場所ではない。生きている幸せを感じることができる場所であるべきである。そのためには、ユニバーサルデザインの考え方を取り入れ、多くの人にとって価値がある施設になるよう改善を重ねる必要がある。
井上 滋樹(2011年1月26日付け読売新聞「論点」より)